2027年(令和9年)分から、高所得者向けの追加課税制度「ミニマムタックス」が大幅に強化されます。特別控除額は3.3億円から1.65億円へ半減し、税率は22.5%から30%へ上がります。
この改正の特徴は、対象が超富裕層から、会社売却や不動産売却で一時的に大きな所得が出た人にまで広がる点です。株式の譲渡益だけの場合、影響が出始めるラインは約10億円から約3.3〜3.4億円まで下がります。
1. なぜ必要とされたのか:「1億円の壁」
給与や事業所得は、所得が増えるほど税率が上がる累進課税です。一方、株式の譲渡益や配当などは、原則として一律の税率で分離課税されます。高所得者ほど所得に占める金融所得の割合が高いため、所得税の負担率が下がる逆転現象が生じていました。これが「1億円の壁」です。
この是正のため、令和5年度改正で導入されたのがミニマムタックスです。令和7年分以後の所得税について適用されています。
2. 仕組み:「最低でもこの割合は負担してもらう」
ミニマムタックスは、通常の計算による所得税が一定の水準を下回る場合に、その差額を追加で納める仕組みです。計算式は次のとおりです。
| 計算式 | |
|---|---|
| 改正前(令和7・8年分) | (基準所得金額−3.3億円)×22.5%−基準所得税額 |
| 改正後(令和9年分以後) | (基準所得金額−1.65億円)×30%−基準所得税額 |
この計算結果がプラスになったときだけ、その金額が追加で課税されます。用語は次のとおりです。
- 基準所得金額:総所得金額と分離課税の各種所得金額の合計です。確定申告不要制度を使った上場株式等の配当・譲渡所得も含まれます。
- 基準所得税額:通常の方法で計算した申告書上の所得税額に、申告不要とした所得への源泉徴収税額を合計したものです。
つまり、「申告不要を選べば関係ない」とはなりません。特定口座(源泉徴収あり)で多額の譲渡益や配当が出た場合も、申告不要を選んでいても追加納税が生じる場合があります。
3. 影響が出始めるラインは「約3.3〜3.4億円」
4. 誰が影響を受けるのか
- M&Aなどで多額の株式譲渡所得や退職所得が見込まれる人
- 多額の不動産譲渡所得が発生する人
- 特定口座(源泉徴収あり)で大きな譲渡益が出た人や、大口株主ではなく多額の配当を受ける人
継続的に高い所得を得る人よりも、会社の売却や事業承継、資産の売却で、ある年に所得が集中する人ほど影響を受けやすい制度です。
5. 実務上の注意点
含まれないもの:基準所得金額には、預貯金の利子など源泉分離課税の所得や、NISAの非課税分は含まれません。このほか、スタートアップへの再投資に係る所得も除外されるとする解説がありますが、要件は個別に確認が必要です。
ふるさと納税の落とし穴:基準所得金額には、ふるさと納税を含む各種所得控除が考慮されません。そのため、多額のふるさと納税をしても、寄附額のうちミニマムタックスに係る所得税相当額には減税効果がありません。
影響は所得税のみ:住民税には影響しません。
復興特別所得税などの扱い:復興特別所得税の計算には注意が必要です。2027年1月からは防衛特別所得税も創設されます。細かい扱いは、申告前に確認してください。
6. 時期の検討が重要に
適用は令和9年分(2027年分)以後の所得税です。売却や所得の実現が2026年中か2027年以降かで、適用される制度が分かれます。そのため、事前の所得税額の試算とスケジューリングが重要とされています。
ただし、売却時期は事業上の判断や他の税負担、取引相手との関係にも左右されます。税負担だけを理由に決めるのではなく、専門家と試算しながら検討するのが現実的です。
まとめ
- 特別控除額は3.3億円から1.65億円へ、税率は22.5%から30%へ変わります(令和9年分から)。
- 株式譲渡益のみの場合、対象になるラインは約10億円から約3.3〜3.4億円に下がります。
- ふるさと納税などの所得控除は考慮されません。
- 売却時期の検討には、事前の試算が欠かせません。