事前確定届出給与の実務上・税務上の注意点

事前確定届出給与は、役員に賞与を支給しても損金算入できる数少ない方法ですが、「届け出た時期に、届け出た金額を、1円も違えずに支給する」ことが絶対条件です。少しでもずれると支給額の全額が損金不算入となり、しかも役員個人には所得税・住民税がかかるため、法人と個人で二重に課税されたのと同じ結果になります。

本記事では、制度の基本を押さえたうえで、税務上の注意点と、決議・支給・源泉徴収・社会保険といった実務上の注意点を整理します。

制度の基本

法人税法34条1項は、役員給与のうち損金算入できるものを次の3類型に限定しています。これ以外の役員給与(届出のない賞与など)は、原則として損金不算入です。

類型内容主な要件
定期同額給与毎月同額の役員報酬改定は原則として期首から3か月以内など
事前確定届出給与所定の時期に確定額を支給する給与(役員賞与など)期限内に税務署へ届出、届出どおりに支給
業績連動給与利益の状況等を示す指標に連動する給与同族会社以外が対象、報酬委員会等の手続き、有価証券報告書での開示など

中小企業の役員賞与で実際に使われるのは、ほぼ事前確定届出給与です。また、一定の要件を満たす譲渡制限付株式(RS)も事前確定届出給与の対象となり、要件次第で届出が不要になります。

届出期限の考え方

届出期限は「いずれか早い日」で判定するため、株主総会の日程次第で想定より早く到来する点に注意が必要です。

ケース届出期限
通常(定時株主総会で決議)①株主総会等の決議日から1か月を経過する日、②職務執行開始日から1か月を経過する日、のいずれか早い日。ただし会計期間開始日から4か月を経過する日が上限
申告期限の延長特例を受けている法人上記の「4か月」が「延長月数に3を加えた月数」に読み替えられる
新設法人設立日以後2か月を経過する日
臨時改定事由(役員の昇格・降格など)臨時改定事由が生じた日から1か月を経過する日(当初届出期限のいずれか遅い日)
業績悪化改定事由による変更変更の決議日から1か月を経過する日(最初の支給日前であることが前提)

「決議日から1か月を経過する日」は、たとえば6月25日決議なら7月25日です。月末決議など日付の数え方で迷う場合は、余裕をもって早めに提出するのが安全です。届出書は「事前確定届出給与に関する届出書」と付表を使い、e-Taxでも提出できます。

税務上の注意点

最大の原則は「届出額と支給額、届出日と支給日の完全一致」です。多く払っても少なく払っても、支給額の全額が損金不算入になります。

1. 増額も減額も全額否認

届出額100万円に対し110万円を支給した場合、超過10万円だけでなく110万円全額が損金不算入です。減額して90万円を支給した場合も同様に90万円全額が否認されます。「少なく払ったのだから問題ない」は通用しません。

2. 複数回支給で一部だけ相違した場合

年2回支給の届出で、1回目は届出どおり、2回目だけ減額したようなケースは、原則として両方とも損金不算入と判断されるリスクがあります。ただし国税庁の質疑応答事例では、職務執行期間が2事業年度にまたがり、当期に届出どおり支給し翌期の支給だけが相違した場合には、当期の支給分は損金算入を認めるとしています。同一事業年度内の相違は救済されないと考えておくべきです。

3. 減額が認められるのは限られた場面だけ

届出後に支給額を変更できるのは、臨時改定事由(役員の職制上の地位の変更など)か、業績悪化改定事由(経営状況の著しい悪化など)がある場合に限られ、いずれも期限内の変更届が必要です。単なる資金繰りの都合や、業績目標に届かなかったという理由は、業績悪化改定事由には該当しません。

4. 全額不支給にした場合

届出をしたうえで一切支給しなかった場合、損金算入額がそもそもゼロなので法人税の問題は生じません。変更届の提出も不要です。ただし毎期「届出だけして業績次第で支給するかを決める」運用を続けると、実質的に利益調整の手段とみなされるおそれがあるため避けるべきです。

5. 支給日のずれ

届出た支給日と異なる日に支給した場合も、届出どおりの支給とは言えず否認リスクがあります。休日で振込が前後する可能性がある日は避け、届出書の支給日と実際の振込日を必ず一致させてください。

6. 役員個人の課税は別に生じる

法人側で損金不算入になっても、役員個人の給与所得としての課税はなくなりません。否認された場合は法人税と所得税の両方の負担が残ります。

実務上の注意点

実務では「決議→届出→支給→源泉・社保の手続き」を一連の流れとして管理し、どこか一か所でもずれないようにすることが肝心です。

1. 株主総会・取締役会の決議と議事録

役員ごとの支給額と支給時期を具体的に決議し、議事録に残します。「総額○○万円の範囲内」といった決め方では確定額とは言えません。届出書の記載内容(役員名、金額、支給日)と議事録の内容を一致させてください。

2. 支給額は「無理のない額」に

業績が悪くても資金繰りが苦しくても、届け出た以上は届出どおりに払う必要があります。期首の段階で楽観的な業績予想に基づいて高額を届け出ると、後で支払えなくなるリスクがあります。支給時期の資金残高を見込んだうえで金額を決めましょう。

3. 支給日は振込日で管理する

支給日は、実際に振込が完了する日と一致させます。休日・祝日や金融機関の締め時間で振込日がずれないよう、平日の余裕ある日付を選び、経理担当者と支給日を事前に共有しておきます。

4. 源泉徴収

役員賞与は「賞与」として源泉徴収します。税額は「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を使い、前月の社会保険料控除後の給与額をもとに算出します。支給額が確定しながら未払いのまま支払確定日から1年を経過すると、支払があったものとみなされて源泉徴収義務が生じる点にも注意が必要です(法人の経営状況悪化による債務免除など、一定の場合を除きます)。

5. 社会保険

役員賞与も標準賞与額として社会保険料の対象になり、支給日から5日以内に「賞与支払届」を提出します。

6. 「月額を下げて賞与を厚く」スキームの注意

標準賞与額の上限を利用して社会保険料を抑える目的で、役員報酬を低くし賞与を高額にする設計が紹介されることがあります。形式上は可能でも、将来の年金額や傷病手当金にも影響し、実態と乖離した設計は年金事務所から調査を受ける可能性もあります。制度改正の動向も含め、社会保険労務士への確認をおすすめします。

7. 届出書の控えと提出記録の保管

届出の有無・提出日は税務調査で必ず確認されます。e-Taxの受信通知や収受印のある控えを、議事録とともに保管しておきます。

よくある失敗例とチェックリスト

否認事例の多くは、制度の理解不足ではなく「うっかり」から生じています。

失敗例結果防止策
株主総会の日から1か月を過ぎて届出期限徒過で全額損金不算入総会日程が決まった時点で届出期限を逆算
資金不足で届出額の一部だけ支給支給額全額が損金不算入支払可能な金額で届け出る
支給日が休日で翌営業日に振込届出どおりの支給と認められないおそれ平日かつ余裕のある日を支給日にする
端数調整で数千円ずれた全額損金不算入届出書・議事録・振込額を突合
役員の交代・昇格後に変更届を出さなかった変更後の支給が届出と相違臨時改定事由の発生時に期限を確認
源泉徴収税額を月額表で計算源泉所得税の過不足賞与の算出率の表を使う

支給前の最終チェックリストです。

  • 決議日・職務執行開始日・会計期間開始日から届出期限を算定した
  • 届出書を期限内に提出し、控え(受信通知)を保管した
  • 議事録・届出書・振込予定の金額が1円単位で一致している
  • 支給日が届出どおりで、休日にかかっていない
  • 支給時点の資金を確保している
  • 賞与の算出率の表で源泉徴収税額を計算した
  • 支給後5日以内に賞与支払届を提出する段取りがある

まとめ

事前確定届出給与は、期限内に届け出て、届出どおりの日に、届出どおりの額を支給すれば、役員賞与を損金に算入できる有効な制度です。一方で、わずかな金額や日付のずれでも全額が否認されるため、決議・届出・支給・源泉徴収・社会保険の各手続きを一つの流れとして管理することが欠かせません。

金額は資金繰りに無理のない水準で設定し、判断に迷う場合は顧問税理士や社会保険労務士に事前に相談してください。

※本記事は2026年9月時点の一般的な取扱いをまとめたものです。個別の事案への適用や最新の法令・通達・質疑応答事例は、国税庁・日本年金機構の公表資料でご確認ください。

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